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AI小説論考:生成AIの時代で小説家が生き残る方法について

生成AIの進化がもたらした変化は、創作の世界に大きな影響を与えている。特に、画像生成AIは、商業的なコンテンツ制作の場面で確実にその存在感を強めている。例えば、画像生成AIはすでに広告バナーや使い捨てのビジュアルコンテンツを大量に「コスパよく」生成することで、すでに人間のイラストレーターやアーティストを置き換え始めている。
これは文章の生成においても例外ではなく、ChatGPT で書かれたブログ記事はすでに存在するし、AIの進歩によって文章のクオリティが上がれば、この流れはさらに加速するだろう。
当然、この影響を受けるのは、小説家も例外ではない。

では、これからの小説家に求められることは何だろうか。結論を先に述べると、技巧・独創性・感情の3つだと考える。

目次

生成AIによる「制作」

生成AIによるコンテンツの制作スピードは圧倒的である。画像生成AIは、一見しただけでは人間が作ったように見える画像を、低コストで、数秒で大量に生成することができる。

このことは、商業的な文脈では非常に重要となっている。

例えば、広告を出すためにバナー画像を作る等といったよりケースにおいては、「コスパよく」大量の画像を数秒で生成できるということは、人間のクリエイターに比較して、圧倒的な強みであるといえる。
現状ではそこまでクオリティが高くないと感じる人もいると思うが、生成AIの性能はどんどん上がるであろうから、商業的な文脈において人間を代替するのは時間の問題だ。

しかし、創作の文脈においてはどうだろうか?

生成AIが画像や文章を作るプロセスは、人間が創造するというそれとは全く異なる。
ざっくりいうと、生成AIは「プロンプトに対して、マッチ度の高いもの」を出力しているに過ぎない。生成AIは既存のデータを基に新しい表現を作り出すことはできるが、全く革新的なアイデアや、深い意味を持つ作品を自発的に生み出すことはできないのだ。

ここで、「創作」と「制作」の違いが浮かび上がってくる。

「建築家のアナロジー」と、「創作」の主体

「創作」とは何か? 「制作」とはどう違うのか?

これを深く考えるとき、「建築家のアナロジー」が便利なので、これを用いて説明する。

突然だが、何か芸術的であったり、美麗な建築物を思い浮かべてみよう。

ここで、「建築物を『創作』したのは誰か?」と問われたら、おそらく多くの人は「建築家」と答えるのではないだろうか。
しかし、冷静に考えると、実際に建築物を建設するのは、建築家ではなく、建設作業者である。

建築家と建設作業者は何が異なるのだろうか。大きく異なる点は二つあると考える。
それは、「建築家は設計図を描いた」ということと、「建築のプロセスをスタートしたのは建築家」ということだ。
先ほどの、「建築物を『創作』したのは建築家」という直感に結びつけると、「創造性は『設計図を描き、創作のプロセスをスタートした』者に存在する」と、我々は認識しているという示唆が得られる。

一方、「建築物を作成、つまり『制作』したのは誰か?」と問われると、直感的には、制作プロセス全体に関わった者、つまり、建築家や建設作業者や関係者を含む全員であると言えるのではないだろうか。

これらのことを整理すると、設計図を書き、プロセスをスタートさせた者が「創作者」であり、そのプロセスに関わる者全員が「制作者」ということができる。

次に、先程の建築家の例を、人間が生成AIを使ってコンテンツを作るということに置き換えて考える。
「コンテンツの設計図を作る」というのは、生成AIにプロンプトを通じて指示を与えるという、人間の領分である。
また、コンテンツを作るというプロセスを始めた者も、紛れもなく人間である。
つまり、先程の主張である、「設計図を書き、プロセスをスタートさせた者が『創作者』」ということに基づけば、コンテンツ制作においても、人間が創作者となると言える。

このことは次のことを示唆する。それは、我々は、生成AIを用いて作られたコンテンツに対しても、創作者は人間であると認識するであろうということだ。
また、制作者についても同様のことが言える。つまり、コンテンツの作成に関わった者全員、すなわち、人間と生成AIが共に制作者であるということだ。

この認識は非常に重要だ。なぜなら、生成AIを使用したコンテンツ制作においても、人間の役割が依然として中心的であることを示しているからだ。

では、生成AIを使ってコンテンツを作るとき、人間がもつ「創作性」を支えるものは、何だろうか。

筆者は三つの重要な要素があると考えている。

「技巧(テクニック)」と「独創性(オリジナリティ)」、そして「感情」である。

「技巧」「独創性」「感情」の重要性

技巧(テクニック)の深化

これからの小説家は多かれ少なかれ生成AIを使うことになると仮定するならば、当然執筆のプロセスも変化する。これにより、作家に求められる「技巧」の性質が変わってくる。

まず、AIに1つだけのプロンプトで小説を生成させることを考えよう。ただ「感動的なストーリーを作って」と曖昧に頼むだけでは当然十分ではなく、まったく単調で何の魅力もないものになるだろう。

ストーリーテリングの深さ、キャラクターの感情の変化、物語の展開、テーマの伝え方など、このような技巧(テクニック)などをすべて身につけていなければ、よい「設計書」は書けないのである。

また、小説の技術には文体やリズム、視点の操作、登場人物の内面描写といった、単に機械的に処理できない要素が数多に存在する。現状の生成AIはこうした細部を自動的に計算することには向いていないため、作家の感覚や細かい技術が必要不可欠だ。AIはあくまでプロンプトに従い、それに基づいて最適な出力を行うが、創作の本質的な部分は依然として人間の手の中にある。

つまり、技巧とは、AIには真似できない、人間にとって重要な創作性である。

独創性(オリジナリティ)の新たな価値

独創性も、生成AIの時代においては非常に重要な要素だ。AIが生成するコンテンツは、膨大な過去のデータからパターンを学習し、それを元に新しい組み合わせを作り出す。だが、これらは「過去に学んだもの」の枠を超えることができない。つまり、AIは過去のパターンをベースに新しいバリエーションを提供するが、それを本当に革新的で新しいものに変えるのは、人間の独創性しかない。

感情はAIに対する完全な優位性

生成AIが感情を持つことは不可能である。感情は、人間の体験や経験、内面的な揺らぎから生まれるものであり、単なるデータやパターンの学習では再現できない。AIは、人間の感情に関する情報を解析し、その結果を反映した出力を行うことはできるが、その背後にある「感情そのもの」を感じることはできない。

物語において、感情は読者との強い共鳴を生む要素だ。登場人物の苦悩、葛藤、成長、そして読者自身の経験に響く深い感情の描写が、物語を特別なものにする。人間の小説家は、とくに自身が体験した感情や内面の葛藤を作品に反映させ、それを通じて読者と感情的なつながりを築くことができる。AIにはこの「生きた感情」を感じ取る能力が欠如しているため、感情豊かな物語を創り上げるのは人間の小説家にしかできない。

感情は、読者の心を動かす最も強力な武器であり、これがAIに対する人間の完全な優位性である。感情に根ざした物語は、読者に深い印象を残し、ただの技術やパターンでは表現しきれない感動を与えることができる。

小説家が生き残るにはどうすればいいか?

生成AIの進化によって、執筆のハードルは下がり、AIを利用した小説が加速度的に増加する時代に突入するだろう。おそらくその未来は目の前に迫ってきている。そのとき、つまり執筆において「生成AIを使わざるを得ない」フェーズに突入したときに備えるべきことは何だろうか。それは、「生成AIを使って小説を書くテクニック」そのものであると筆者は考える。

では、生成AIを使って小説を書くためには何が重要になるだろうか。

技巧を磨いておく

生成AIを活用して小説を書く時代においても、「技巧(テクニック)」は依然として重要になるだろう。AIを用いて小説を書いたとして、出力されるものはあくまでプロンプトに基づいた結果であり、その品質は人間が与える指示に左右される。つまり、プロンプトを設計する際に物語の骨組み、キャラクターの内面、文体のリズムなど、細部にまでこだわる必要がある。読者が違和感を覚えないように、ストーリーが自然に流れ、キャラクターの成長や葛藤が深みを持つようにするための技巧は、依然として小説家の領分であり、AIには真似できない。

独創性に集中する

生成AIが学習するデータは過去の作品に基づくため、どうしても出力結果には既存のパターンが反映されやすい。AIが生成した作品は、しばしば「どこかで見たような」内容になりがちだ。ここで差別化するのが人間の独創性である。小説家は、自分自身の経験や価値観、独自の視点を取り入れ、まったく新しい物語を作り出すことができる。読者は未知の展開や驚くべき結末を期待し、そのような斬新なアイデアは人間の独創性から生まれる。

AIが優れたテクニックを持つ小説を大量に生成できたとしても、唯一無二の世界観やテーマを探求できるのは、人間の小説家だけだ。この「独創性」が、読者を引き付け続ける鍵となる。

感情の力を信じる

感情は人間の小説家にしか生み出せないものだ。AIは感情そのものを経験しないため、感情に基づく深い物語を創ることができない。小説家は、自分が感じた喜びや悲しみ、怒りや希望といった感情を物語に注ぎ込むことで、読者の心に直接訴えかける作品を作ることができる。登場人物の苦悩や葛藤、読者の心の琴線に触れるようなエモーショナルなシーンは、AIには描ききれない部分だ。

感情は、AIに対する小説家の最大の強みであり、その力を信じて作品に反映することは、生成AIの時代においてより重要となるであろう。

まとめ:これからの小説家

AIが進化し、物語を生み出すプロセスは大きく変わるかもしれない。しかし、AIがどれだけ技術的に優れていても、技巧・独創性・感情の三つは人間の小説家にしか持ち得ない特質だ。

生成AIが小説を大量につくる時代において、これらの特質を磨き続けることで、小説家はその存在感を強めることができ、より魅力的な作品を生み出すことができるだろう。

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著者

創作のプロセスやノウハウ、執筆を通した学びなどを共有します。
物語を書くということは、少なからず自分と向き合うことでもありますので、時折、思惟や内面的なテーマも取り上げたいと思います。

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