以前私は小説投稿サイトにいくつか小説を書いていたのだが、2020年前後で筆を置いた。その理由と、いま改めて再開する理由を吐露しておく。
執筆をやめた理由
執筆をやめることになった理由はいくつかある。
まず、自分が望む書き方と、読者が期待する書かれ方との葛藤があった。例えば、異能バトルの場面で難解な言い回しを使いがちであったが、この難解さは自分のエゴである側面が大きく、読者には伝わっているかというとかなり怪しいところであった。ある回において「虚数空間」といった言い回しや同様のトーンのものを小説に持ち込み、当時の私自身は満足だったが、この回の直後にページビューが大きく減少していた。実際に改めて今読んでみると、確かにいまいちピンとこない話であった。
なお、虚数空間という言い回しはエヴァに出ては来るが、これは視覚的な説得力があるから許されていると感じる。
もちろん、自分の好みの言い回し・こだわりを作品に反映させることが正しいのか、明確な答えはないと思う。確かに、「見やすい」「理解されやすい」「面白い」という要素は、間違いなく「人気の出る小説」を書く上で重要である。読者に楽しんでもらいたいなら、それに従うのが賢明であるとも思う。とはいえ、絶対的に「正しい小説の書き方」など存在しないのだから、今振り返ると、自分の書きたいように書いていたことが間違いだったわけではないと感じている。
執筆をやめた理由の二つ目は、執筆や文章のテクニックが遥かに上の作家と自分を比較してしまったことだ。ベテラン作家のほうが優れているのは当然であるし、もちろんそういった作家のページビューは高い。特に私のような「ひよこ作家」の書いた小説が多くの人に読まれないということは至極当たり前なのだが、せっかく書いた作品が見られないことは、やはり大きくモチベーションに影響を与えていた。
三つ目の悩みは、自分が本当に小説を書くに足る人間なのか、という点であった。正直、20代前半に至るまで金銭的な余裕がなく、ほとんど小説に触れる機会はなかった。小説を読んだことすらほとんどなかったと言っても過言ではない。田舎育ちだったため、本屋も遠かったし、せいぜい学校の教科書や映像作品、テレビドラマ、金曜ロードショーがインプットとなっていた。ちなみに、ある程度の田舎ではテレビ東京など映らないので、アニメもあまり見たことはない。
さらに性格的な面もある。人目が気になって早く家に帰りたいという性分だったため、図書室などにも足が向かず、読書経験は他の人より圧倒的に少なく、語彙力も不足していた。
最後に、これが最も大きな理由であるとも思うが、リアルとの優先度の問題があった。ちょうど転職のタイミングであり、現実の生活に時間を割かなければならなかったのである。
執筆を再開する理由
執筆を再開するのはなぜかといえば、これは自分の幸福について突き詰めた結論である。
先日、「VIA-IS」という「キャラクター強み」なるものを診断するアプリを使った。この診断は、個人の「キャラクター強み」を24段階で測るもので、「創造性」「リーダーシップ」「チームワーク」などが含まれる。ストレングスファインダーを知っている人なら、イメージしやすいだろう。この診断の結果、最も高い優先度を持つのが「創造性(クリエイティビティ)」だという結果になった。
よりイメージしやすいように、一応トップ5も書いておく。
1. 創造性 (Creativity):物事を新しく生産的な方法で行う能力。従来のやり方に満足せず、常に改善を追求する。
2. 知的柔軟性 (Judgment):あらゆる角度から物事を検討し、証拠に基づいて判断を変える能力。
3. 大局観 (Perspective):賢明な助言を行い、他者に納得感のある見方を提供する力。
4. 公平さ (Fairness):個人的な感情に左右されず、すべての人に対して公平に接する。
5. 思慮深さ (Prudence):注意深く選択を行い、後悔するような行動を避ける慎重さ。
大学時代は理系で、今もプログラミングに関わるという論理的で厳密性が求められる仕事をしているため、自由度の高い「創造性」が自分の強みだという結果には少し驚きであった。しかし、私の経験したこととしては、小説執筆やデザインに関わるウェブ開発といったクリエイティブな内容は多かったため、これは納得のいく結果でもあった。
執筆を再開しようと思ったもう一つの理由は、内的な豊かさについての気づきである。今の仕事はウェブアプリの開発で、これは楽しい部分もあるが、全てが自分のやりたいこととは言えない。例えば、ユーザーにとってデメリットのある機能を開発しなければならないこともある。しかしこれは、職務遂行スキルといった「スキル的な財産」にはなるが、内的な豊かさに完全には繋がらないと感じている。したがって、本当に豊かな人生を送るためには、自分が心からやりたいことに取り組むことを考えることが重要だと感じた。
このような過程を経て、自分に対して最も豊かさをもたらすものは何かと考えたとき、これはやはり小説執筆だという結論に至った。
これはリアルの優先度を凌駕するものである。つまり、仕事に対して残業や自己研鑽の時間を使うよりも、小説執筆のほうが優先度が高いのである。
改めていま振り返ると、転職のタイミングであった当時に執筆をやめたこと自体は、非常に自然なことだと思っている。人生において物事の優先順位が変わらないというのは極めて稀であり、かつ時間は有限であるため、優先度が高くないものは結局のところできないのである。
いまも仕事が重要であることは変わらないのだが、内的な豊かさの追求、つまり小説執筆に重きをおくことにした。
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